一回見たいなぁとワタシが言ってた4年前は、彼女は普通のスポーツウーマンだった。
その後、すぐに重い脳梗塞に襲われ生死をさまようことになり、それでも負けずに次々とリハビリや新しい治療法に挑み続けた。
今も、半身に大きく麻痺が残る。
それでも、前へ前へとがむしゃらに体を使ってリハビリに励む。
この夜も、ボードのビンディングを締める、ヘルメットのベルトを締める、コースにボードをかかえてゆっくりと登る、一本一本時間をかけて滑る。
着水後も水を飲みながらもゆっくり泳いでプールから上がってくる。
彼女が滑る初心者用の短いコースの向こうでは、長いコースをアクロバティックにターンやジャンプを繰り返すボーダーがいとも簡単に階段を上りスロープを上がって立て続けに何本も滑っている。
彼女は淡々と自分のペースで装備をきちんとつけていく。
コース途中で転倒したら、立ち上がるのも大仕事。
重い靴の中ビチョビチョやろ?気持ち悪くないの?と聞くと、「気持ち悪いけど楽しいが勝つねん。」
見守る父さんも母さんも、ぐっと握りしめた手を貸さない。
がんばれ!がんばれ!と心の声が聞こえてくるようだ。
だんだん疲れがたまって、最後の一本はコース途中で転倒したから、もうやめるかな?と見ていたら、時間をかけてビンディングをはずし、這うようにしてコース半ばからスタート地点まで登る。
気を取り直したようにゆっくり、ボードを履いてまた滑走する。
危険も伴うが、訓練するなら楽しいことがセットじゃないとね。と父さん。
背中うったよォ。もうやめるよ。と彼女が言った8本目まで。
初心者のコースに交じっていても、かっこよかったよ。